ワールドカップ観戦記
梅原 幹正

No36
 今回、これを書くにあたって、いろいろな本を読んだり、サイトを開いたりしたおかげで、大会期間中は『どうしてだろう』と、疑問に思っていたコト―98年大会は全試合TV中継されていたのに、02年大会はされなかったのはどうしてかというようなコト―が、氷解することもあれば、しないこともあった。
 例えば、どうしてあれだけの空席が出来てしまったのかというようなコトは、当時の状況を調べれば調べるほど、判らなくなってしまい、今も疑問のまま残っている。
 そういう疑問の最初のひとつは、韓国対トルコ戦を観戦すべく、乱暴な運転手の操る送迎バスが停まった駐
車場から、韓国人の声と、時折聞こえてくる日本語で騒がしく、トルコ人などひとりもいない中を、大邸スタジアム前まで歩いている時に湧いた。


 スタジアムまで続く500bほどの道の両端には、延々W杯の関連グッズを売る露店が伸びている。
もちろんオフィシャルパートナー(以降OP)やオフィシャサプライヤー(以降OS)の商品ではない。
 露店されていたモノは、お土産屋さん巡りで二番目に連れて行かれた偽ブランドショップの隣にあった、屋台のような店で販売されていた中途半端なつくりのモノと同じ商品―ヒディング監督、アンジョンファン選手らの顔が大写しにプリントされた赤いTシャツ。顔に貼るためにと売られている国旗シールは、ここと、駄菓子屋以外ではお目にかかれないような気がする―であったのだが、日本では、スタジアム周辺で、OPやOS以外の商品を販売することは禁止されていたのに、どうして韓国では許されているのだろう。
 湧いたのは、そういう疑問だった。
 帰国してから色々調べて行く過程で、W杯を開催した日本は新潟市の商工会議所組合員である小売店店主が『W杯商品の関連グッズを販売したい場合、どのような注意を払わなければならないのか』というようなコトを、2001年2月7日というから、W杯開幕の1年以上も前に、電通2002年FIFAワールドカップライセンシング事務局という、OSやOPの日本代理店と言えるトコロと質疑応答を行い、その内容が自らのWeb上に公開しているのを見つけたので読んでみると『新潟市の地場商品を包むための包装紙に、02年W杯を連想させるようデザインを行ってはならない』とか『サッカーボールだけなら包装紙に使っても良いが、2002とサッカーボールでは02年W杯を連想させるので、そういう包装紙は作ってはならない』や『漢字で世界杯としても、FIFA及び、OSやOPが権利の侵害だと抗議してくる可能性がある』など、実に些細なコトにまで注意を受けていたコトが良く判った。  ライセンシー事務局は、そういう包装紙を使用した小売店に、たとえ悪意がなくても、FIFAやOS、またはOPに『我等の権利を侵害している』と、思われれば、包装紙はアンブッシュ・マーケティングと呼ばれる、模造品と化し、訴訟を起こされる可能性があると警告していた。
 読み終わった後「天文学的な金を払えるだけのOSやOPが、小さな小売店がするコトにまでケチをつけるとは、細かすぎるんじゃない」としか思えなかったが、そういう事例として他に、スタジアム内でアイルランドのサポーターの受難記事を見つけるコトが出来た。
 それによると、パブというからアイルランドの居酒屋だろう。パブ仲間、平たく言えば飲み友達で応援にやって来たサポーター連中が『飲み友達同士ではるばる日本までやって来た記念に』と、いつも集まるパブの名前を書いた国旗で自分達のチームが戦うスタジアム壁面を飾ろうとしたトコロ『OSやOPではない店の名前が、TVに映ってしまえば、正当に金払って会場に広告看板を出しているOSやOPの権利が奪われる可能性がある』という理由で、国旗が没収されてしまったとある。
 「国旗に書かれていた居酒屋の名前は、日本人が知らないだけで、実は、世界的に有名な店かもしれない」と言われれば、これだけの情報ではなんとも言えないので、口を小さくするしかない。けれどそのパブが、莫大な額が払えるから、世界的な企業であるOSやOPが、相手にするほどの力があるのかという疑問が残る。
 せっかく持ってきた国旗を奪われたアイルランド人や、新潟の小売店店主が、世界中の人々が集まるスポーツの祭典であるにも 拘らず、金持ち以外は締めだすW杯という排他的な商圏にどのようなを声を上げたのか。
 声色は「韓国のスタジアムがガラガラだったのはどうしてですか」と、何気なく尋ねた私に向って『チケット、日本人には普通でも、お金の価値が日本の10分の1でしかない韓国に住む我々には高すぎたんです』と、とてもきれいな顔をした韓国人ツアーコンダクター(以降TC)が上げた悲鳴と、掌を併せるかの如く符合するに違いないと確信出来るコトに、やりきれない思いがする…。

 新潟商工会議所の質問に答えたワールドカップライセンシング事務局は、いろいろ細かいコトまで規制しなければならない理由として『世界各国から日本は著作権意識が低い国であると思われないため』と、述べている。
 となると、スタジアム周辺でOPやOS以外の商品の販売を許している=『著作権意識が低い国』と思われても韓国人は平気なのか平気ではないのかという、大邱スタジアム入場ゲートまで歩いていた時に湧いた疑問の解答を


『平気なんだろう』



 と、せざるを得なかったのは、スタジアムまでの道程に、数え切れないほど並ぶアンブッシュ・マーケティング製品を購入したり、顔に国旗シールを貼ったり、ペインティングを楽しむ韓国人達眺めていたからだけではなく、偽ブランドショップ店を観光ルートに組み込むという、ちょっと、考えられないツアーを経験したからでもあった。
 ということを、今更ながら書いていると、阪神タイガースが18年ぶりに優勝したというありがたみが、うんざりに変わる程、虎マークが、あれもにもこれにもと、もうありとあらゆる商品に付いていたのは、なんだったのかという疑問が湧いたので、ついでにと調べてみると『優勝セールを行いたい』と、阪神球団に申請した店舗数は1万店舗。
球団は商標権の使用料として総額3億円近くの利益を得るとあった(新聞報道)。単純計算、使用料は一店舗3万円。それは、FIFAとOP、OSの関係を調べて行く過程で出てくる額に比べると、呆れるほどの安さだった…。



 02年杯に戻る
 韓国人が『著作権意識が低い国』と思われても、平気であろうとも『高い金を払っているOSやOPは我慢ならないだろう』と思ったので、さらに調べてみると、FIFAのHPに韓国人のアンブッシュ・マーケティング対策委員が『露天商は追い払っても追い払ってもやってくる』と、嘆いているという文章が掲載されていた。
 これを見る限り、どうやら対策は執っていたかのようだが、大邸スタジアム周辺が、そんなことは何処吹く風といった調子であったので、FIFAのHP上に掲載されている韓国人の嘆きを述べている文章は、FIFAのOPやOSに対する言い訳のようにも思えた。



 視界いっぱいにスタジアムが広がる場所に来た。
 5年前に訪れたソウルのチャムシルスタジアムが、堅牢なアルマジロを思わせる概観だったのに対して、ここ大邸のスタジアムは、パイプのように細い鉄筋が観客席の外円を支えていて、なんか弱々しい。
 もちろん全体は、何処のスタジアムとも同じように堅牢なコンクリートで覆われているのだが、第一印象としては、随分頼りなげなスタジアムに見えた。
 スタジアム前に立ち、座席案内板を探す私達の左側がやたら騒がしい。
 振り返ってみると、JR宇治駅前広場を半分にしたくらいのスぺースに様々なイベントブースが並んでいた。
 時刻は17時30分、キックオフまで、1時間以上もある。
 私とTさんは野次馬根性もあって、そこを冷やかしに行くことにした。

 調べて行く過程で、W杯を開催した日本各地の自治体は『OSやOPの権利を守るため 』にと、新潟市と同じような苦労をしていたコトが身に染みて判った。
 茨城県鹿嶋市は『スタジアム周りにOPやOS以外の自動販売機があれば、それを撤去した』だけではなく、試合会場ではない、鹿嶋市をホームタウンにしているアントラーズの練習グラウンドにあるOPやOS以外の広告看板ですら、マスキングしていた。
 となると『こういうイベントブースを立ち上げているコト事態、OSやOPは怒り出すんじゃないかな』と思われるのだが、冷やかしに覗いた大邱ワールドカップ競技場側に建ち並ぶブースのどれにもこれにも、今までに調べてきたコト、書いてきたコトが、崩れ落ちるような光景が広がっていた…。(つづく)    

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