ワールドカップ観戦記
梅原 幹正

No20
 さて、FIFAからスポーツマーケティング業務を請け負っていたISLという会社がW杯開幕の約一年前(2001年3月30日)に負債総額500億円を出して倒産してしまったコトは前回にも触れた。
 この会社はW杯の主催者であるFIFAに入ってくる収入の2/3を管理していたワケだが、その収入とは、そもそもどんなものであったんだろうかというコトを詳しく知ろうと思って、いろいろ調べてみた。
 ひとつはここでも何度か触れた放映権料収入なのだが、この収入が呆れてしまうほどの高額
であるコトはここでもさんざん書いてきたから、もういいと思う。  その放映権収入と肩を並べるほどの大口収入源に、協賛企業が支払うスポンサー契約料収入がある。予選リーグ全試合が終了し、決勝トーナメントが始まりはじめた6月15日になっても到着していない、私とTさんが購入を決めた三位決定戦のチケットも、今大会、オフィシャルサプライヤー契約をFIFA(ISL)と結んだ韓国の航空会社のチケットだった。
 オフィシャルサプライヤーとは、日本で契約した6社は日本国内でのみ、韓国で契約した6社は韓国国内でのみ、自社の製品にW杯のロゴマークをつけて売り出す権利やW杯を自社のCMに使用出来る権利を契約により得た企業のコト。
 オフィシャルサプライヤーになる企業は一業種につき一社と決められており、その契約料は10億円と言われている。
 オフィシャルサプライヤー契約を日本国内で契約した企業は日本国内に向けてでしかW杯のロゴマークをつけた製品を販売したり、CMを流したりすることは出来ないが、今更繰り返すまでもなくW杯は世界中が注目するスポーツイベントであるため、全世界に向けてW杯のロゴマークを付けた自社製品を発表出来る契約ももちろんある。その契約を行った企業のことをオフィシャルパートナーという。これまた一業種一社と決められており、全世界で合計15社しか契約出来ないため、契約を締結したというだけで、企業のイメージが上がるとまで言われている。その契約料はオフィシャルサプライヤー契約よりもはるかに高く、一社60億円が必要だと言われている。
 私は、契約料として10億、60億といった莫大な金が必要であると知った時、これだけのお金を出す企業にはW杯のロゴマークを製品に付けて販売出来たりする事のほかにどんなメリットがあるんだろうかということが疑問になったので、さらに調べていったのだが、TVや会場でW杯を一試合でも観戦したらすぐに気付く、ピッチを取り囲むように並んでいる企業のロゴマークが入った横長の看板にオフィシャルパートナー契約やサプライヤー契約を結んだ企業は自社の名前を表示出来るのがメリットのひとつだというコトを知った時、思わず大笑いしてしまった。
 あの看板は、一枚横幅6bの長さがある。だから、タッチラインに16枚づつ、ゴールラインに8枚づつの合計48枚がピッチを取り囲むように並んでいるのだが、先にも記したようにオフィシャルパートナー契約を結べる企業は一業種一社の合計15社しかないため、W杯全64試合の会場には、オフィシャルパートナーの看板がタッチラインに1枚、ゴールラインに1枚づつの、合計3枚。残りの3枚をオフィシャルサプライヤーで試合毎に分け合っている事になる。これはつまり、試合を会場であれ、生中継のTVであれ、スポーツニュースであれ、雑誌であれ、とにかくW杯の試合中一試合をなんらかの形で見た人は、同時にオフシャルパートナー、サプライヤーの企業名を必ずといって良いほど見ている事になる(タッチラインに1枚、ゴールラインに1枚づつ並んだ3枚の広告看板は、サッカーの試合時間である90分間のうち、12分間は確実にTVに映るコトになる)。
 『看板に自社の名前が出る』というたったそれだけのコトにどれほどのメリットがあるのか理解出来なかったので、これらのことを「ハイハイ、確かに看板を見た見た」と、笑いながら調べていた私だったが、次の事例を知り、笑えなくなってしまった。
 6月9日日曜日、横浜で行われた日本―ロシア戦の生中継は66lの視聴率を獲得した。視聴率66lということは、日本の総人口約13000万人の中の66lということだから、単純計算すれば8400万人が日本のW杯初勝利をTVで見ていたということになるのだが、それはイコールオフィシャルパートナーの広告看板を8400万人が見ていたということにもなるので、結果、60億円のスポンサー料を支払ったことにより、8400万人に自社の名前を12分間印象付けるコトになったワケとなる。
 これは8400万人に約71円づつの広告宣伝費をかけたというコトを意味する…。
 この計算は、広告看板を出した事により、どれだけの対費用効果があったかを、日本国内限定だが、知るための例。しつこいようだが、2002年大会の予選に参加した国と地域は198を数え、のべ視聴者数が500億を超えたというコトからも判るように、他に類例を見ない程に巨大なスポーツイベント(オリンピック=2000年シドニー大会=の述べ視聴者数は約226億人)となっているW杯の全64試合に12分間づつというコトは、総計768分(12時間8分)も自社の名前を流してくれるなんて


“W杯って、なんと素晴らしい広告媒体なんだろう”


 と、W杯はサッカーを楽しむイベントであって、広告媒体であろう筈がないのに…笑うのをやめて、思ってしまった。  あまりの“ゼロの多さ”にお金の感覚が麻痺しないようにと気をつけつつ、これらを調べていた私だったが、自社の名前を売り込みたいと、世界中にチラシや製品サンプルを配ったり、企業名が入ったティッシュを撒くよりも、6000000000億円払ってオフィシャルパートナーや、1000000000円払ってオフィシャルサプライヤーになり、5000000000人に46080秒、広告看板を見てもらう事のほうが、はるかに対費用対効果がある(お金を払う価値がる)と納得したり、ISLの破綻により「本当にW杯が中止になっていたら、企業は『大変ありがたい広告媒体がなくなる』と恐れていたかもしれないな」と、思ったりした。


 そういう思考と調査の過程において、4年前の98仏大会において、優勝候補であったドイツの記者が初出場国で日本にも勝ったクロアチアに準々決勝で敗れた時、2002年大会を共催する日本の記者に言ったという「何時の日か、W杯の観客席は、スポンサー達によって埋められてしまうだろう」言葉に出会った。
 ここを突っ込んで調べてゆくと、W杯のオフィシャルパートナーやオフィシャルサプライヤーになる特典は、自社の製品にW杯のロゴマークを使用できる権利や、看板に名前を入れてもらい世界中の人に企業名を覚えてもらうというコトだけではなく、W杯のチケットをプレゼントとして、要するに“自社製品を他社製品よりも沢山購入してもらうための付加価値として扱うことが出来る”というモノがあったのだというコトが判った。ために、彼等には優先的にチケット与えらる。与えられたチケットを利用したければ、利用して、W杯の観客席をホスピタリティーの場に利用できる特権も与えられるというコトを知った。


“チケットを自由に扱えるなんて、まるでW杯を支配する王様のようだ”と思った。


 我家で地団駄を繰り返している家宝(ジダンが地団駄人形)も、オフィシャルサプライヤー契約を交わした企業が行った懸賞で、チケットに次ぐ賞として用意されたシロモノだった…(つづく)。
【写真は三位決定戦の会場にももちろん設置されていた広告看板】

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