ワールドカップ観戦記
梅原 幹正

No18
「三位決定戦のチケット、配達されてきましたか」
 会社でFさんに、日本―チュニジア戦のチケットゲットに失敗した日の出来事を話していたトコロへ、私と共に韓国へ三位決定戦を観戦しに行くTさんが、こう声をかけてきたのは、予選リーグ全試合という事は2002年大会の2/3を消化した日のコトであった。
 正確な日付は曖昧になってしまっているが、韓国の航空会社がスポンサー枠として有していた三位決定戦のチケット購入のために“例の会
社”が指定した銀行口座へ現金を振り込んだのは、日本がロシアに勝利を収めた日の前日か、翌日であったかと思う。
 ともかくも、振り込んでから「今日は来るかな、今日は来るかな」と、チケットの到着を待ちわびていたにも拘わらず、大会日程の半分を消化した6月15日になっても、チケットはまだ私の手許に到着していなかった…。
 私とTさんは「三位決定戦に出て来て欲しいのは、アルゼンチンかフランスか、う〜ん、ウルグアイでもいいな〜、あはは、待て待てイタリアを忘れていたよ。なにはともあれ、何処が来るか、今からわくわくだよね」と、強豪国が三位決定戦に出て来る事を期待して、予選リーグを見守っていたのだが、我が家でを繰り返し続ける人形のモデルとなった選手の怪我が響き、開幕戦を落とした前回王者で、欧州選手権、コンフェデレーションカップと、国際大会を総ナメにしてきたフランスは2点差以上の勝利が必要であったデンマークとの試合に、その怪我しているジダン選手を強行出場させたにも拘わらず、逆に2失点を喫して敗戦。結果ひとつの勝利どころか、ひとつのゴールも奪えず、予選敗退してしまった。
 今大会、ひとつのゴールも奪えなかったチームは、サウジアラビアと中国、そしてこのフランスだけだった。一点も取れなかったチームを並べてみて直に判るのは、フランス以外はアジアのチームだというコト。それに気付いてしまったんで、日本もアジアの国で、前回仏大会は弱いといわれていたジャマイカからなんとか1点とっただけだったんだから、決勝トーナメント進出は“出来過ぎ”なんじゃないかなと思わざるをえなかった。
 98仏W杯チャンピオンチームの一員で、今大会は代表に選出されなかったカランブーという選手が雑誌のインタビューで、仏代表が予選敗退した理由として
『大会開幕が早すぎて、選手が所属クラブで行う試合の疲れを取ることが出来なかった』
と、いうのをあげていた。
 かれの言う通り、今大会は98仏大会と比べて、2週間程早く開幕していた。
 早めた理由として『日本の梅雨と湿気を考慮したため』と説明されている、がしかし、雨でも余裕で行われるサッカーを、雨が気になるからといって開幕を早めたというのはどうにも理解できない。もちろん、ゴールキーパーがキャッチした筈のボールが雨のせいで濡れていたため、手を滑らし、そのままゴールしたなんていう結末は見たくはないが…。


 もうひとつの理由である日本の湿気、これは外国人には相当つらいものであるらしいが、生まれてこの方ず〜っと日本に住んでいる私には、当たり前のように存在している湿気を海外のヒトがどれほど嫌がっているのかはよく判らない。ともかく、開幕を早めた理由がそんなところにあったんだということを考えながら、改めて大会日程を見渡してみると『梅雨や湿気という日本の気候が選手のプレーに支障をきたす恐れがあるため、開幕を早めたのです』という理由が信じられなくなった。
 と、言うのは、例えばこれは世界中でそうだと思うのだが、一日の中で一番暑い15時30分という時間に試合をするというのは、梅雨や湿気の問題を云々する前に、考慮すべきことであると思うのだが、違うのだろうか。…それに昼間だと、社会人である私はTV観戦がしにくいし、チケットが当選したヒトも、仕事や学校を休んで観戦に出かけねばならないじゃないか、と思ったのは、試合をする選手には関係ないから余談として…。
 
 日本がグループリーグ最終戦を戦ったチュニジアは、昼間の試合が2試合もあった。彼等は日本との対戦時、前半こそは飛ばしていたが、後半は前半の戦い振りが嘘のように弱くなった。この試合がキックオフされた6月14日15時30分の長居スタジアムは気温が33度もあった。彼らの初戦、6月5日、神戸で行われたロシア戦も15時30分キックオフで、気温は30度。たとえアフリカ人でも、そんな暑さの中で2試合もやらされれば、と思うと、ちょっと“かわいそう”になってくる。


『開催国である日本のために日程を組んだんだな』


と、チュニジア人が言ったという報道はなかったと思うが、彼らの誰かが何処かで言っていてもおかしくはない。


 初戦のセネガル戦でフランス代表が放ったシュートは、悉くバーやポストに当たっていた。ということは、彼等はあと数センチの壁に泣かされた訳だが、前述のカランブー選手によると、開幕が早過ぎたため、選手達は、リーグ戦・カップ戦・チャンピオンズリーグという所属クラブでの試合の疲れを取れぬまま、W杯に臨まざるを得なかったため、こういう結果になったという事だった。
 カランブー選手によれば、疲れが取れぬまま試合をすると、5センチ10センチの差で、パスやシュートの精度が落ちてしまうものらしい。

 試合数の増加という事について、自分なりに調べてみると、前にも記した有料放送の会社が絡んでくるという事が判った。
 ヨーロッパには、欧州サッカー協会(UEFA)という、FIFAの下部組織が主催するクラブNO1を決めるチャンピオンズリーグという大会がある。これは50年以上続く伝統ある大会だが、現在、出場するだけで4億円、優勝すれば60億円という莫大な金がクラブに入ってくる大会になっている。
 この優勝賞金、何年か前までは60億円ではなく、20億円だった。
 賞金額が3倍に膨れ上がった原因は、W杯の放映権を高額で購入したものの、破綻してしまったドイツのキルヒメディア=キルヒメディアと放映権については、ワールドカップ観戦記Nを参照してください=と同じ有料放送の会社が、このチャンピオンズリーグに対抗して、人気クラブだけでチャンピオンを決める大会(スーパーリーグ)を開催しようとした事にあった。

 人気クラブと有料放送の会社が結託し、新たな大会が開催されれば、チャンピオンズリーグを開催することによって得られる放映権料や広告料収入をクラブと分け合い、利益を得ていたUEFAは、その利益とチャンピオンズリーグの権威が失墜するかもと恐れた。そこで、チャンピオンズリーグの賞金額を三倍に吊り上げ、出場チームを24から32に増やす事にした。

 出場チーム数が増えれば、当然試合数は多くなる。試合数が多くなるということは、クラブとUEFAには多くの入場料収入と放映権料収入が入ることでもあった。


 しかし、試合数の増加は、当然のように日程の過密化をもたらした。



 過密化した日程は、これ以上選手に負担を与えないがためにと、スーパーリーグを行なうことを出来なくする程のものだった。

 チャンピオンズリーグの権威は、試合数を増やす=選手を酷使することにより、守られたといえる。

 W杯仏代表の初戦は5月31日に行われた。ジダン選手はその僅か2週間前の5月15日、まさしくこのチャンピオンズリーグの決勝戦を戦っていた。彼が所属するレアルマドリッドは毎年800億円近くの運営資金がかかるため、選手が疲れていようが一試合でも多く試合をして入場料と放映権料を稼ぎ、さらにはどんなに無茶をしてでも有名選手をかき集めて優勝し、そこで得られる高額の賞金をモノにしないと、経営が成り立たなくなるトコロまで来ているというコトも知れた。
 これらを調べてゆく過程で私は、強豪クラブで活躍する選手は1年間で80試合(10日で3試合)近くもプレーしなければならない、ために疲れたままでプレーを続け、結果、怪我が増えてしまうと言う事も知った(Jリーグ所属の選手は年40試合程度)。


 “選手が使い捨ての時代に入っている”


 フランスと共に、観戦したいと思っていたアルゼンチンが予選敗退してしまった。
 実に40年ぶりの事らしい。
 最後の戦いとなったスウェーデン戦におけるアルゼンチン選手の戦い振りは、雑誌や新聞によると、恐ろしく感動的なモノであったらしいのだが、私にはそれがどのような試合であったか、今日まで全く知る事が出来ていない。何故なら試合は一日で一番暑い、そしてサラリーマンである私が仕事中である15時30分にキックオフされていたから…、だけではなく、放映権料が高すぎるため、NHKと民放が購入を断念した試合の一つでもあったからだ(つづく)。

<<BACK 目 次 NEXT>>

copyright©洛南タイムス社