ワールドカップ観戦記
梅原 幹正

No16
さて、中山選手の年齢に負けないプレーが観たいと、日本とチュニジアの試合の電話販売が行われた日もFさんにケイタイを借り、二刀流でチケットゲットをもくろむ計画だったのだが、
「携帯電話よりは、公衆電話の方がつながりやすいらしいよ」と言うTさんの科白を信じ、この日まで一度も電話販売によるチケットゲットは成功していなかったが故に「この試合こそは」と気合を入れて、電話受付が始まる14時の15分前、私
は自宅から歩いてすぐの所にある文化パルク城陽内にある公衆電話へと向かった。
 が、15分前でも遅かったのか、そこはテレホンカードと携帯電話という私と全く同じモノを手に2機ある公衆電話の受話器を握り締める2人と、ケイタイ耳に当ててる1人の女子高校生に占拠さていた。
 彼女達は「繋がんないね〜」「観戦したいよね〜」「繋がれよ〜」「あ〜、ムカツク〜」と文句言いいながら、リダイヤルを繰り返していた。
 科白と時間から察するに、私と同じモノを狙っていたのは間違いない。きっとあの子達の携帯電話にも私の持っているのと同じように「只今込み合っております」という通話規制中を示す文字が表示されていたのであろう。
 最初に電話販売が行われた6月7日、コールだけで一分間に600万軒、抗議だけで9万件あった時も表示されていたのだが、この13日は日本とチュニジアの試合という人気チケットが発売されたためであろうか、7日を含む、他の日よりも表示開始時間が早かったような気がした。
 コンサートでも何でも、人気あるチケットをゲットする時は、販売開始時間の何分も前からかけると有利になるんだろうか。よく判らないが、私も今回はと気合を入れていたので、意味があるのかないのか判らないまま、先の表示が出始めた頃からコールし続けていたのだが「お客様がおかけになった方面の電話は現在大変込み合っております。申し訳ございませんが、暫く経ってからおかけ直しください」というガイダンスが繰り返されるばかりで、埒が明かなかった。
 やっぱり公衆電話だと「貴重な休みを使用して、試合観戦をするつもりのこっちに公衆電話を提供しなさい」みたいに、女子高生達を見ていると、振り返った一人と目が合い、その子から「申し訳ありませんが、生憎、この電話は現在使用中。お手数ですが、別の電話へおまわり下さい。ジロジロ見てんと、わかったんなら、よそへ行け」みたいな顔で睨まれた。一人が睨むと連鎖反応のように睨む6個の眼に圧倒され、ちょっと怯んだ。


 「てめえら高校生はこの時間学校だろうが、サボってないで、さっさと勉強してきやがれ」


と言いたいトコロであったが、言えるハズもない。たとえ高校生でも、三人同時に睨まれたら「恐い」「恐い」と視線を落として見た先の携帯電話に表示されている時計は14時10分前。ここで空きもしない公衆電話を待っているより、どこか別のトコロにも設置されていただろうかと、まわりを見渡してもそれは何処にも無かった「確か2階にもあった筈」と、記憶を掘り起こしながら、2階3階へ上がるための設備として設けられているスロープへ向かうべく、高校生に背を向けて、チケット販売受付電話番号へコールしながら走り出した。

 文化パルク城陽一階入口前から続くスロープは、2階図書館前へと繋がっている。そこまで上がった私、公衆電話がないかと見渡すと、公衆電話より先に、群がる4人のネクタイ締めたサラリーマンが目に入った。
 年の頃、体格、毛髪の量全てが違うが、同じ会社に勤めているのだろう、自然と仲間意識が出ている4人だった。彼等は一階にいた女子高校生と同じように、公衆電話を、ケイタイ耳に当てながら取り囲み「あかんな〜」「かからんな〜」「もう売り切れたかな〜」と異語同音に喚いてた。その中の一人である年配(毛髪の量から判断した)と目が合った。“さっきみたいに睨まれるのかな”と、ビクついている私に向かってその年配は
「にいちゃん、あかん、あかんで、俺等20分前からここでかけ続けてんのや、今ごろ来ても遅いで」と、笑いながら言った。二階の電話を使用するサラリーマンが20分も前から来ているという事は、一階にいた女子高生達はもっと前から来ていたことになる「これは甘かったのか」と思ったが、だからといって諦めるワケにはいかないから「他に、公衆電話があっただろうか」と、ケイタイのリダイヤルを続けながら考えている私に向かって、4人の中で、一番若そうな男が、天井指差し「確か上に、もうひとつ置いてありましたよ、行ってみたらどうですか」と言ってきた。他の三人も「行き、行き、確かあったわ。はよ行かな売り切れるで、わはは」と口々に言ってきてくれた。
「4人もいるんなら、3階の電話も確保出来るのに、私みたいな“よそ者”に譲ってくれるなんて優しい人達だな」と思いつつ、3階へと続くスロープを駆けた。  私が狙っていた大阪は長居で行われる日本とチュニジアの試合の余りチケット電話販売枚数は僅か750枚しかなかった。それを狙う人はいったい何人いたんだろう。よく判らないが、倍率はこの日が一番高かったと思う。なんせ文化パルク城陽の公衆電話が空いてなかったくらいなんだから…。


 果たして、3階にも電話はあった。が、一階、二階にあった緑のそれとは違い、黒い、そして今までのふたつに比べると、かなり小ぶりの電話だった。そしてそれはいきなりに目に飛び込んできた。要するに誰も使用していない。
 “これはツイテル”と、いそいそテレホンカード取りいだし、差し込まんと電話に近付いて驚いた。テレホンカード差し込み口が設けられていない…。

「なんで」と疑問に思いつつ、電話機の右側面、左側面と調べるがない「まてまて、フェイントかけて裏面にあるとか」と考えて思った。


「裏面にあるわけないじゃん、馬鹿みたい」と…。


 しかし、昔は公衆電話から電話していたのに、携帯電話を買った瞬間から「もう公衆電話なんか絶対に使わないだろうな」と、公衆電話の存在意義に疑問を持つまでになり、さらにはここ文化パルク城陽各階に一機づつ公衆電話が設置されているコト事態にも気を留めていなかったトコロにまでそれを軽視していた私が、動画送れる携帯電話が出回る世の中を、公衆電話を確保するために、駆け回る事になるとは夢にも思っていなかった。そして漸く確保した電話は、テレホンカードすら使えない、携帯電話時代から振り返ったら一昔どころか二昔前のシロモノだったとは…。一寸先は闇とはよく言うが、何処にあるかと一寸先も判らずに公衆電話を探し続けて明けた闇の向こうにあったのは、今はもうあるということ事態が信じられない、テレホンカードも使えない、古い電話であったというのは、何かを暗示しているみたいでイヤになった。考え過ぎだと思うけど…。



…NTTに聞いた所によると、緑の電話はNTTに電話番号所有権がある電話で、私が3階で確保した黒い電話は、文化パルク城陽に電話番号所有権がある電話という事であった…。



 テレホンカードが使えないからと言って、チケットゲットを諦める訳がない。
 携帯電話でチケットゲットの挑戦をする前、私は気合を入れるかのように勢いよく充電器にそれを押し込んだ時と同じように、10円玉ではなく、奮発して100円玉を黒い公衆電話に押し込んだ。

 時に14時10分、電話販売受付開始から10分が経過していた…(つづく)。

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