ワールドカップ観戦記
梅原 幹正

No10
 さて、結局遅刻した会社で当然の如くガミガミ言われた私は、FIFAとバイロム社と、その日(02年6月5日)朝から電話した会社に“八つ当たり”をしていたのだが、それはまあいい。

 時間になって来社したTさんは、チケット取得の代行致しますとされている広告を出していた会社とのやりとりを「カクカクシカジカ」と説明する私の喋りにひとしきり笑った後、

「騙されるかもとか、怪しい会社とか言う以前の問題でしたね」
と言い、続けて「でも疑問なんですが、一体どういうつもりでそんなアホな広告を、この会社は
出したんでしょうね〜」と、あの短期間低価格の旅行ばかりを紹介している例の雑誌をめくりながら言い、チケット取得の代行致しますと記されているページを指し示しながら、それを私の元に返してきた。

 そのページを眺めてみると、これがW杯を観戦するためのツアーが様々紹介されている。例えば6月2日、光州で行われる 「スペイン対スロベニアの試合」と同じく3日に蔚山で行われる 「ブラジル対トルコの試合」 を観戦するツアーがあり、その内容はと言うと、1日の夜、飛行機で釜山に着き、そこで一泊。次の日朝からバスで最初の試合会場である光州まで運んでくれるので、そこで試合を観戦。終わると釜山に帰り、一泊。3日朝からバスで蔚山まで送られ、試合を観戦、終わるとまたまた釜山に戻り、一泊。起きたら帰国となっている。

 この忙しいツアーにチケットは付いていない。

 チケットを持っていない人がこんなスケジュールのツアーに申し込んでくる訳が無いから、要するにこれはチケットを持っている人だけを対象にしたツアーだ。しかし、このツアーの通りにチケットを持っている人がいるんだろうかという疑問はさておき、こういうツアーを企画立案した旅行会社の人達に“感心”せざるを得ない。何故ならその人はこのW杯をビジネスチャンスと捕らえ、あらゆる手を打っているからだ。


 直前になってから観戦したいと喚いている私とはエライ違いだ。


「どうします」  Tさんが言ってきたので、

「とりあえず、カテゴリーだけは決めたましたと電話するよ、君、高価だけど、カテゴリー@をお願いしますと言っておくけどいいかな」と、やれるだけの事はやろうと、徹夜をした後、メチャクチャな寝方をしてしまったおかげで出来上がった“疲れ顔”をしながら彼に言った。

 彼は私の疲れ顔を“諦め顔”として受け取り、どうせ無理だろうと思ったのか、ヤケになったように、

「そうですね、@でいいですよ」と言った…。

 その夜、茨城はカシマスタジアムで行なわれた試合で、ドイツとアイルランドが1対1で引き分けた。終了間際に追いつかれたものの、ドイツは6月1日、札幌で行なわれた第一戦で、サウジアラビアを8対0という大差で倒した。

 ボロボロに破れたアジア代表のサウジアラビアが、この大会の2年前、中東はレバノンで開催されたアジアカップの決勝で日本と大接戦をしていた事を思い出した。確か、先制点を挙げた後、日本はずっとサウジに押されっぱなしであった。だから、日本とほぼ互角と思われるサウジアラビアがあれだけやられたという事は、日本がベルギーに引き分けたのも韓国がポーランドに勝ったのもうまく行き過ぎたといったトコロだったのだろうかという疑問が湧いた。もちろんあのアジアカップから二年の月日が経っているから、そこで差が出たのかもしれないが、と、早く寝たらいいのに、帰宅してから、もう一度サウジとドイツの試合のVTRを見直して、考え方を変えた。

 サウジアラビアの選手は全然やる気がないように見えた。この6月5日、終了間際にドイツに追いついてみせたアイルランドの、諦めないとか、負けたくないという気持ちが、サウジの選手からは全く感じられなかった。しかし、厳しい予選を戦い、ワールドカップに出てきた国がやる気を出さないなんて事があるんだろうか。良く判らない。

 明日の試合の予告という形で、TVのニュースでは、サウジアラビアの王様がW杯の観戦のために来日したと報道していた。王様はサウジの選手にどんなコトを話すんだろうか。

 眠る前に何時もの癖で開いたインターネットの、あるスポーツ新聞社のサイトによれば、この日のドイツとアイルランドの試合でも、二千席もの空席が出たらしい。

 その情報とTVを見比べて気付いたのだが、なんというか、空いている席はセンターサークル付近、つまり、前回記した様に、カテゴリーで言えば@ばかりなのだ。

 最も良い席が空いている…。

 FIFAとバイロム社の説明によれば、海外販売する筈だった席が売れ残っていたため、空席が出来たという事らしいが、海外からやって来る人は良い席で、開催国の住民は悪い席になってしまうというんだろうか。

 サウジの王様はインタビュアーにドイツ戦での事をイヤ味たらしく聞かれると
「あの試合ではサウジの悪い所ばかりが出てしまっていました。しかし明日(6月6日)のカメルーン戦はサウジらしい戦いを見せてくれると思います」と、丁寧に答えていた。

 そのインタビューを見ながら、

「明日負けたら『今回も前回と同じ様に悪いトコロばかり出てしまいました』とか言うんじゃないだろうな」 と毒づき、続けて、

「4年前のW杯と同じく、今回も悪い悪いチケット問題に悩まされています」と、自分の状況を、王様の真似をして呟いてみた。そう呟いてみた時沸いたのは、このワールドカップでは、何処の誰の意図が一番重要視されているのだろうかという疑問だった。つまりこの大会で王様のように、と言えば大袈裟だけど、まず第一に優先されているのはなんなのだろうと思ったのだ。

 観客が優先されていないのは間違いない。W杯を観戦したいと世界中からやって来たサポーター達が座る筈だった席が、ああも“ガラガラ”状態で大会が運営され続けているコトからも、観客を大事にしていない事は明らかだ。新聞報道によると、4日、空席問題の会議の最中、日本戦が始まるからと、何人かの関係者が、会議の中途で席を“離れた”という事があったらしい。

 優先されているのは選手でもないだろう。選手は各国で長いリーグ戦を闘って疲れた体を休める間もなくW杯を迎えなければならなかったから、彼らでもない。

 色々考えてみようとしたが、止めた。明日、寝不足のまま、カテゴリーの件であの会社に電話をし“脱力”するような返答をされれば、疲れ顔がさらにおかしくなってしまう。

 日本が初戦を迎えた6月4日から5日をチケットゲットで振り回された私は、バイロム社が抱えていた余りチケットの一部を4日、電話販売した事など知る由もなかった。

 次の朝(6月6日)読んだ新聞報道により、6月8日以降に日本で行われる一次リーグの余りチケットは総計39600枚という“膨大”な数字になるという事を知った…。そしてそれは、7日から電話で販売される事になるらしい…。

 あのアホな会社が、今度は「電話で確保したチケットを売るんですね」みたいな“マヌケ”を言わない様にと祈りつつ、私はケイタイのリダイヤルを繰り始めた…(つづく)。

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