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| ■ワールドカップ観戦記 |
| 梅原 幹正 |
No8
同じくTVでいつか見た、12時間もチケット販売サイトにアクセスし続けてチケットゲットを果たしたという 太った男性を思い出した。Tさんもそうしたのかなと思ってさらに聞いた。 「もしかしてさ、ネット繋がったの」 「イヤイヤ、そうじゃありません。あんなの無理でしょう」 確かにそうだろう。チケット販売サイトのサーバー自体の容量がそもそも低いものであった上に、TVで『ネットでチケット手に入ります』と繰り返し繰り返し報道していたら、とてもじゃないけど繋がるとは思えない…。 「ワールドカップの、今真っ最中のサッカーワールドカップの三位決定戦やろな。もしかして、他の競技『プロ野球の三位決定戦のチケットですけどね』ってみたいなオチつけるのと違うやろな」ちょっとイラつきながら言った。 スキーでも、ラグビーでも、ラクロスでも、世界の頂点を決める大会は何でもワールドカップという事を最近まで知らなかった。 「プロ野球に三位決定戦なんて、ないでしょう」 「判ってるよ、試しに言ってみただけ」 「ハハ…」 「ハハじゃないわい、ホントはどうなんだよ?」とイラついてきた私の口調からからかい過ぎを反省したのか「あの本で見つけたんですよ」と言った。 あの本、あの本ってなんだ。私は直に思いつかなかった。 「借りたでしょ、そちらから」 彼は私の物忘れに呆れているみたいに言う。物忘れは、遥昔から私の特徴のひとつ(こないだ、車を掃除してたら5万円出てきた)だけれども、ワールドカップのチケットをゲット出来る本はさすがに忘れる筈もない。しかしもし、そんな本持っていたとしても、誰にも貸さない、貸してたまるか、あるんなら、こっちが貸して欲しいくらいだ。 「そんな、チケットゲット出来る魔法の壷みたいな本、俺が持っていたか。そんな本持ってたとしても、誰にも貸さんぞ、えっー」と言うと、 「だから〜、あの“旅行の本”ですよ、あれに載ってたんですよ」 「旅行の本」 「はい、あの低価格短期間の旅行ばかりを紹介している本ですよ、借したでしょ、僕に…」 あ〜っ、と、思い出した。確かに貸した。韓国へ観戦しに行こうと決めた時、現地まで行く方法を探るためにと購入したぶっとい雑誌を…。確か、4日間も休めないだろうから、3日で韓国行って帰れるプランを探していたのだけれども、結局無かったんで、放り出しておいたのを「見たい」と言った誰かに貸したというのを思い出した。 「あぁ、ハイハイ、君に貸してたのか。とっくに忘れてたよ」 でも、旅行の本にワールドカップのチケットについて、何か書いてあるのだろうか。そんなの全然気付かなかった。 「“チケット売ります”みたいな事が書いてあるの?」 自分の買った本に書いてあることを貸した人に尋ねるのはちょっと情けないけど、しょうがなかった。 「正確には、韓国で開催される試合のチケット購入の代行致しますと書いてあるんですけどね、どうします」 と尋ねてくる。 「どうしますってな〜」 「ハイハイ」 「それを申し込むコトに決定。だから、今すぐ電話しろ」 私は受話器の向こう側にいる彼に向かって、すでに眠りこけているであろうアパートの隣人が飛び起きるような声で喚いた。 そんな私に向かってTさんは「今すぐって、こんな夜中に受け付けるワケないでしょう」と、冷静に言い放った。 『ゴール、決まりました。前半26分、韓国代表ファンソンホン選手のゴール、韓国1点先制』 韓国代表チームが、ベルギーと戦う日本代表と同様の固さが見られたのは最初の数分間だけだったようだ。TVではファンソンホン選手の前半26分のゴールに熱狂するサポーターたちで埋まったスタンドを映している。その韓国のカラーである赤に染まったスタンドの騒ぎを見て、冷静さを取り戻した。 人が興奮して大騒ぎしているのを横目で見ていれば、見ている本人は、その時どれほど大騒ぎをしていても、冷静になってゆくモノらしい。Tさんもそんなトコロだったのかもしれない。 「まっ、確かにな。明日、朝イチで電話する事にしよう」と、きわめて冷静に言った私の科白を制するようにTさんは、 「まっ、そっちがそう言われるんならそれで良いんですけど、何と言うか、自分が見つけて電話したのになんですが、大丈夫ですかね」と、言った。 「はっ、何が」 「そちら騙されてるでしょ、4年前に」 確かにそうだ…。 ここで先にも書いた通り、4年前の仏大会の時のチケットゲットも彼が言うように、雑誌か何かに掲載されていたのを購入したトコロ、あのザマだったんだ。…すっかり忘れていた。 まだまだ、完全に冷静であるとは言えないようだ。 それでも、なんとかチケットをゲットしたい私は「でもまぁ、今回は大丈夫だろ〜。4年前のあれは、旅行会社が無いチケットを空売≠した事から起こった事だったろ。今回はチケット、実際に余っているんだから、電話だけはしてみようよ。明日、朝イチで騙され慣れている俺が電話してみるよ」と言うと、Tさんは 「判りました、で、今、試合を録画したのを見てるんですか」と聞いてきた。 「ああ、ダイジェスト番組だけどな」 「韓国、強いですよね…」 「エッ」 「テレビ、メチャメチャ聞こえてますよ」 受話器に耳を傾けながら、音量を下げるべくTVのリモコンを手にしたのは、ちょうど53分のユサンチョル選手の“弾丸シュート”を流している時だった。真赤に染まったスタンドがまたしても爆発している。これを見て、完全に冷静さを取り戻した。 …5年前、ソウルで見た時もあんなに真っ赤だったっけ。 思い出そうとしてみた。が、結局止めた。またもや、電話相手を無視してしまうかもしれないし、朝イチで電話をせねばならないので、早起きの必要がある。この事についてはまた今度考えてみることにすべく、Tさんに 「それで、その会社の電話番号教えてくれる」と、言うと、 「ハイハイ、06の…」と私の本から見つけた“チケットの取得代行します”とある会社の電話番号を伝えてきた。 それを聞き終わると何時もより少し早い時間に目覚ましを合せ、眠りにつこうとした。が、チケットゲットが叶うかもしれないという興奮でなかなか寝付ず、結局“徹夜”になった…。 翌朝10時“真っ赤”に染まっていた韓国対ポーランド戦のスタジアムと同じ色をした目を擦りながら、私は受話器に向かった…(つづく)。 |
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