地雷と不発弾の被害に悩む国
カンボジアかけ足見聞記
高橋内科医院院長 高橋 権也
■はじめに
 国際ロータリーはWHOと協同で、2005年のポリオ(小児マヒ)根絶を目指して、世界の子供たちにワクチンを投与するお手伝いをしてきました。その成果が実って小児マヒの発生数は一昨年には全世界で500名を切りました。昨年は全世界での発生数が0に近いことが期待されました。しかし結果は反対で、実は1878名も発生していたことがわかりました。昨年発生した国は七カ国で、インド、パキスタン、アフガニスタンとアフリカの四カ国です。インドでは最も患者数が多くて1211名でした。
 カンボジアでは1997年に最後の一例が発生した後、新しい患者は出ていません。しかし世界中で患者が0にならない限りワクチンの投与は続けなくてはなりません。私たち京都を中心とするロータリークラブ2650地区の55名はワクチン投与を支援して、2月9日にカンボジアへ行きました。
 この紀行文はカンボジアでの見聞をもとに、皆様に知っていただきたいことをまとめました。10回の予定で連載させていただきます。ご一読ください。

第1回 隣国のタイベトナムとの対立はこの国の歴史的な宿命です



 私たちがカンボジアへ行く用意をしていた1月30日、日刊紙は一斉に在カンボジアのタイ大使館がカンボジア市民によって焼き討ちされたと報じました。大使館ばかりでなくタイ系企業やホテル13か所が放火、奪略の被害に遭ったほか、タイ系企業に勤務する従業員の自宅38か所が襲撃され略奪されたそうです。また、プノンペンの一流ホテルに泊まっていた日本人7名は着の身着のままで避難して難を逃れましたが、お金を含めて全ての所持品を失ったということです。

ポリオワクチン接種に集まったトンレサップ湖上に住む
子供たち

 今回の暴動はちょっと日本人には考えられない理由によっておこりました。タイの有名女優が「アンコールワットはもともとタイのものだった」と発言したというカンボジア日刊紙の報道がきっかけでした。その後、カンボジアのフン・セン首相が「アンコールワットを盗もうとする泥棒スターだ」とその女優を非難したため、一挙にカンボジア国民の反タイ感情に火がつきました。
 焼き討ちに遭ったタイ大使館は日本大使館の隣にあります。日本の新聞は、大使館が焼け落ちたような書き方でしたが、行ってみますと外観はきれいで、すぐには被害の程度はわかりません。よく見ると窓の縁が真っ黒で建物の中が焼けたようです。タイの大使は裏の塀を乗り越え、川に飛び込んで避難したそうです。
 開設10周年の昨年に建てなおした日本大使館は警備が大変厳重でした。二重三重の高い塀と大勢の警備員が守っていました。こんなに警備が厳重な日本大使館を見たのは初めてです。
 この暴動のきっかけは日本では考えられないことですが、カンボジアの歴史を勉強するとわかってきます。カンボジア人はタイ人に対して強い反感をもっています。同じようにタイ人もカンボジア人に対して強い不信感をもっています。このことは後ほど詳しく説明していきたいと思います。
 更に、日本大使館の情報によりますと、昨年の12月15日の夜、アンコールワットがあるシェムリアップ市内のべトナム人が経営するお店に、二個の時限爆弾が仕掛けられました。さらに近くのオールドマーケットとよばれる市場の近くにも、一個の時限爆弾がしかけられました。幸い事前に住民の通報によって発見され、未遂に終わりました。もし爆発していれば、二階建てのコンクリートの大きなビルは崩壊し、死者が多数出たと考えられます。実は、私たちはその情報を知らないで、オールドマーケットを一時間ばかりうろつきました。どの町にもある庶民の食材が並ぶ大きなマーケットです。人々は何事もなかったかのように商売をしています。この国では、銃器、手りゅう弾、爆発物の入手はきわめて簡単です。武器は国中にあふれています。彼らはいつも危険と隣り合わせです。心配していたらきりがありません。
 この時限爆弾事件は反ベトナム感情を背景にしていると指摘されています。シェムリアップ市は外国人観光客が多く、その上警察の警備はプノンペンより手薄です。テロを起こせば観光事業に打撃を与えることができます。アンコールワットへの観光客が減って困るのはカンボジアではなくて、本当はベトナムなのです。その理由を説明します。
 アンコールワットの入場料は1日券で20ドル、3日通し券は40ドルです。カンボジアの物価を考えると大変高い入場料です。修復は外国の援助によって行われているので、全額カンボジア国民のために使われるのかなと考えましたが、実はそうではないのです。ベトナムの民間会社が利権を握っていて、ベトナムに持っていってしまうそうです。どうしてベトナムの民間会社がアンコールワットの利権を手に入れたか興味があります。政府高官がからんでいるようですが、情報が不確かなのでここでは述べません。しかしカンボジア人にとって癪に障る話ではあります。
 法治国家に住む私たちには考えられない事が起こるのが、現在のカンボジア社会です。また一方、カンボジア人はアンコールワットというエジプトのピラミッドにも匹敵する石造建造物を建てたアンコール王朝の子孫でもあります。今後の見聞記でこの辺の事情を紹介していきます。ご期待ください
(つづく)。



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